本文へスキップ

筑波大学ギター・マンドリン部同窓生のコミュニティ・サイト

大村拓 連載

ジェローム・カーンを知ってますか?

連載へ
プロフィールへ

第1回 クラシック・ギターとジェローム・カーン

 2021年は、「ジェローム・カーンを弾く」をテーマにして、演奏していきたいと思っています。ところで皆さんはジェローム・カーンを知ってますか? クラシック・ギター界隈にいると、ジェローム・カーンの名を聞くことはほとんどありません。「そんな人、聞いたことないぞ」と思った方も多いのではないでしょうか。そこで「ジェローム・カーンを知ってますか?」というタイトルのもとに、ジェローム・カーンとはどんな作曲家なのか、ジェローム・カーンとギターとの関係などについて、連載していきたいと考えています。

 さて、ジェローム・カーンとは、20世紀前半に活躍したアメリカの作曲家で、主にミュージカルのために数多くの曲を書き、「ミュージカルの生みの親」「アメリカ音楽を作った人」とも称される偉大な作曲家です。その作品の多くがアメリカ音楽のスタンダードとなり、現在に至るまで多くのジャズおよびポピュラー演奏家により弾き継がれています。

 カーンは、最初、ニューヨークのブロードウェーで演じる舞台ミュージカルのために楽曲を提供し、後に映画がトーキーになると、ハリウッド映画のために舞台作品をリメイクしたり、オリジナルのミュージカル作品ために新たな作曲をしました。最初のヒット曲は、"The Girl From Utah"という舞台ミュージカルのために書かれた"They Didn't Believe Me"という曲で、楽譜がベストセラーになったといいます。楽譜がベストセラーになるなんて、今では考えられないことですが、レコードがない時代では、気に入った曲は楽譜を買って家庭で演奏するのが当たり前の楽しみ方だったのですね。"They Didn't Believe Me"は、私もYouTubeで弾いてみたので、聴いてみてください。
https://youtu.be/RDHsVRM7ngE

 さて、カーンの音楽の最大の魅力は、何でしょう。それは「転調の妙」だと思います。聴く人の意表を突くような転調は、今でこそ違和感なく受け入れられるのでしょうが、作曲された当時は、相当個性的に見えたことでしょう。特に、決まったコード進行の上に、即興演奏をするのが一般的なジャズ・ミュージシャンにとって、カーンのコード進行は新鮮で刺激的に感じられるのでしょう。中でも転調の妙が冴え渡る名曲"All The Things You Are"は、実に数多くのジャズメンたちが演奏しています。私もあえて奇をてらわずに、オリジナルの転調の動きが素直に味わえる編曲で、この曲を演奏してみました。
https://youtu.be/-7rZRolSJmQ

 私がここで演奏しているのは、すべてジョン・デュアートの編曲です。私が学生の頃は、「デュアルテ」と訳していました。デュアートは、セゴビアのために「イギリス組曲」を作曲するなどクラシック・ギター界でも多大な貢献をした人ですが、ジャズにも造詣が深く、1980年代にはアメリカ音楽の基礎を築いた3人の作曲家のために、それぞれギター・ソロのための曲集を編みました。そのうちの一人が、このジェローム・カーンで、"Classic Jerome Kern"のタイトルの下、代表的な12曲が収められています。そのタイトルのとおり、カーンをアメリカ音楽の「クラシック」としてリスペクトし、「クラシック」音楽のスタイルで、「クラシック」ギターで演奏する、というコンセプトで書かれた大変価値のある作品集です。残念ながら、その後も現在に至るまで、カーンがクラシック・ギターで弾かれる機会は、ほとんどありませんが、私の今回のプロジェクトで、カーンを弾いてみようという人が一人でも増えれば、これほど嬉しいことはありません。

 長くなりましたが、今回はここまでです。次回からは、カーンが楽曲を提供したミュージカル作品の素晴らしさについて、書いてみたいと思います。


筑波大学ギター・マンドリン部 OB・OG会

サイト管理者
 E-mail :
   hirose.yukiyoshi@nifty.com