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筑波大学ギター・マンドリン部同窓生のコミュニティ・サイト

大村拓 連載

ジェローム・カーンを知ってますか?

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第3回 名曲の宝庫「ロバータ」

 ジェローム・カーンの舞台ミュージカルは、前回紹介した「ショウボート」の他にも数作映画化されていますが、今回は1935年に映画化された『ロバータ』を取り上げてみましょう。実は「ロバータ」は「ショウボート」と比べると圧倒的に知名度がありません。公開された1935年は、日米開戦の前夜であり、敵国の娯楽作品を楽しむような国民感情ではなく、この作品がわが国で評判になるようなことはまったくありませんでした。また内容もミュージカル映画ではよくある軽いラブ・ストーリーであり、記憶に残るようなものではありません。にもかかわらず、この作品には歴史に埋もれさせてはいけない特筆すべき点が2つあります。まず1つ目は、ダンスの神様と称された大スター、フレッド・アステアが準主役として出演していることです。このアステアの凄さについては、次回詳しく紹介してみたいと思っています。そしてもう一つの特長は、この作品が名曲の宝庫であるということです。特に「煙が目にしみる」、「イエスタデイズ」、「アイ・ウォント・ダンス」の3曲は、今日までアメリカ音楽のスタンダードとして歌い継がれ、弾き継がれている名曲たちです。3曲ともデュアートがギター・ソロ用に魅力的なアレンジをしているので、私もすべて演奏し公開することができました。それではこれらの名曲を、映画の内容に絡ませながら紹介してみることにしましょう。

@ 煙が目にしみる(Smoke Gets In Your Eyes)
https://www.youtube.com/watch?v=gWfDGf6hNs8

 ジェローム・カーンの曲の中でも、抜群の知名度を誇る曲です。この知名度の高さは、1950年代のザ・プラターズ(「オンリー・ユー」の大ヒットでお馴染み)によるリバイバル・ヒットによるものですが、本来は「ロバータ」のために作られた曲なのです。アイリーン・ダン演じる女主人公がささいな誤解が基で愛し合う恋人と別れてしまう時に歌う、失恋の歌です。恋人たちの確執の原因が、女性のファッションの露出度をめぐるものなのが時代を感じさせます。保守的な彼氏が嫌がる露出度の高い服を、デザイナーである彼女がわざと彼氏の元カノに売ったと誤解して、彼氏が腹を立ててしまうのです。彼氏が去った時に、彼女が「恋の炎の煙が目にしみる」と涙ながらに歌うのです。中間部の意表を突く転調はカーンのお家芸であり、カーンの代表作と言って間違いない名曲です。なおこの主演女優は、「ショウボート」(1936年版)でも主演しており、ジェローム・カーンとは縁が深い人です。


A イエスタデイズ(Yesterdays)
https://www.youtube.com/watch?v=jpjM0L1qZeA

 もちろんビートルズの「イエスタデイ」ではありません。映画のタイトルであるロバータとは、ヒロインの名前ではなく、パリのファッション・ブランド名なのですが、このファッション・ブランドの老女社長が、病に倒れ亡くなる時に歌われるのがこの曲なのです。人生の終わりにあたって過ぎし日に思いを寄せて歌われる、実に感慨深い名曲です。アルペジオを基調としたギター編曲も、まるでギターのオリジナル曲のように響きます。


B アイ・ウォント・ダンス(I Won't Dance)
https://www.youtube.com/watch?v=UJfzzFjmUx8

 バラードが多いカーンには珍しいアップ・テンポなダンス・チューンです。相手からのダンスの誘いを「私は踊らないよ(I Won't Dance)」と繰り返し拒絶しながらも、結局踊りまくることになるご機嫌な曲です。作中では、後に黄金コンビと言われ数多くの作品で共演したフレッド・アステアとジンジャー・ロジャースが、息の合ったダンスを見せてくれます。作品中盤では、アステアは結局デュエットを拒否したまま1人で踊ります。しかし作品のラストは、この2人がこの曲に合わせて楽しげに踊るシーンでエンディングになるのです。この時代の映画は通常主演カップルの恋が成就し抱き合うところで終わるものですが、この作品ではそのシーンの後で準主役カップルのダンス・シーンで幕切れとなる、大変珍しい構成となっています。

 アステアのダンスはいつだって最高なのですが、この曲に関してだけは、個人的にはこれをしのぐお気に入りの名シーンがあります。それは「ロバータ」の2度目の映画化作品の中のシーンで、チャンピオン夫妻というダンスの名手が夫婦ならではの実に息の合ったコンビで、見る者をこの上なく幸せな気分にしてくれます。本来なら大変貴重な映像なのですが、現在ではYouTubeで難なく鑑賞することができますので、アドレスを貼り付けておきましょう。

https://www.youtube.com/watch?v=kCaxR6Cf01w

 なお、このチャンピオン夫妻は「ショウボート」(1951年版)でも素晴らしいダンスを見せてくれています。さて、このようなアップ・テンポなダンス曲を、リズム感を保ちながらギター・ソロで表現するのは至難の業で、デュアートの編曲集の中でも、最高の難度を誇っています。私も大変苦労しましたが、結構ノリノリの演奏ができました。


筑波大学ギター・マンドリン部 OB・OG会

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